2019年7月2日火曜日

ウマノスズクサの秘密

ジャコウアゲハの食草であるウマノスズクサの花の外見と機能については以前紹介しましたが、その内部構造に興味があったので、内部を覗いて見ました。

先般ヤブガラシを紹介した際に、「雄性先熟」型の植物であることを説明しました。反対に「雌性先熟」型の植物です。雌性先熟とは、両性花において、めしべが先に成熟して(運がよければ)受粉した後に、おしべが成熟して花粉を放つ性質のことです。

虫媒花の植物でこれを効率的に行うには、おしべが成熟したときにも虫を引きつける魅力を持たねばなりません。ウマノスズクサの場合は、それを魅力ではなく、罠で可能にします。というのは、めしべが成熟するとき(1日目)には花筒内にびっしり生えた毛によって虫が外に出られないようにしておき、おしべが成熟するとき(2日目)にはその毛が枯れて(萎縮して)虫が外に出ることができます。この時に虫の体に花粉がついていて、その虫が他の1日目の花に潜り込んでめしべにタッチしてくれれば、受粉成功、というわけです。

罠に掛けるには何か餌が必要ですが、ウマノスズクサの場合はこれは蜜ではなく、臭いです。一般に腐臭と言われますが、この写真撮影の間中嗅いだ臭いは、濃厚な青臭い臭いで、強いて腐臭というならば、肉の腐った腐臭ではなく、植物性のもの(野菜など、特にキュウリ)が腐った腐臭と言えるでしょうか。

小バエなどがこの臭いに引かれてやってきます。実際によく晴れた日には小バエが複数集まってきて、何匹かは奥の方に入ろうとしていますが、ウマノスズクサがなかなか実らないことを考えると、この作戦は余り成功してはいないようです。

開花1日目の花の断面です。

花筒の内部は内向きの細毛がびっしりと生えています。 

 花の最奥部、大きなめしべに隠れるようにしておしべがありますが、まだ成熟していません。

2日目の花の断面です。花筒内の細網はすっかり萎縮して、めしべも同じく黒く萎縮しています。

 細毛の拡大写真です。

 萎縮しためしべの側面におしべの葯が開いているのが見えます。

1日目のめしべです。柱頭は6つに分かれています。


2日目のめしべです。すっかり萎縮して、奥にあるおしべの葯が見えています。

1日目の花の花柄の根元を切り取って、花を背後から見るとこのようになります。葯は前部で12本。葯の一部をスライスしてしまいました。

2日目の花を同様に切り取ってみました。成熟した葯が並んでいます。また、柱頭が萎縮したことで、おしべにハエなどが近づく空間が生まれています。

 左が1日目、右が2日目、正面から柱頭を見たところです。

 同じく側面です。

 背面です。時間が経ってきたので、葯の一部が黒く変色し始めています。
以上、2019.07.01撮影

この作業中、1日目のめしべの柱頭に粘液質物質があるのか、ピンセットに吸い付くようにくっついて、扱いにくくて困りました。いったん花粉を受け取ると、絶対に放さないという執念を感じます。

下の写真は3日前のものです。ハエが集まってきて、一部は中に入り込んでいました。
2019.06.28撮影

今日もまた、アシナガキンバエがそそくさと走り廻っていました。体長は4ミリほどです。
2019.07.1撮影



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