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2020年7月21日火曜日

御苑自然教室:アオギリについて

アオギリは漢字で青桐あるいは梧桐と書きます。「梧」一字でアオギリと読むとも、漢和辞典にはありました(『漢字源』)。元々奄美大島以南、中国南部、東南アジアなど亜熱帯原産の樹木で、幹が緑色をしているのはコルク層が薄いためらしいです。若い木の幹は緑ですが、老熟すると灰色がかってきます。しかし、そのような幹でも、幹周りが太ると、古い樹皮が縦に裂けて新しい緑の樹皮が見えるようになります。灰色と緑のコントラストは美しいです。

中国では古来鳳凰が住むおめでたい木とされてきました。理由は成熟途中の果実が、鳳凰の爪の形に似ているということから来ているようです。ちなみに、日本の家紋の桐に意匠として使われているのは、紫色の花を咲かせるキリ(白桐)です。花札の12月の図案は桐の葉と花を抱く鳳凰という絵柄ですが、桐の部分はどうやら白桐のようで、本来ならば鳳凰と関連づけられるべきアオギリとキリを混同していると思われます。

今年は近所のアオギリを春から観察していますが、花の開花は6月末、雌雄同株で枝先に大きな円錐状の花序が垂れ下がるように咲きます。先に雄花が開花し、その後に雌花が開花しました。花の形はちょっと変わっていて、5枚の花弁に見えるものは萼片で、花弁はないそうです。雄花も雌花も蜜が豊富で、アリやハチが頻繁に訪れています。アオギリの蜂蜜から採取された蜂蜜も市販されています。

アオギリは公園木や街路樹として時折見かけますが、京都市内では少ないと思います。葉が大きくて繊細さに欠け、あまり面白みがないからでしょうか。葉の形と繁り具合はプラタナスにちょっと似ています。今回御苑自然教室の出発点となった閑院宮邸跡には、門を入った正面に1本生えていて、ちょうど雌花の花期が終わって、果実が膨らみはじめたところでした。上記の鳳凰の爪状態でした。

このアオギリも、以前はアオギリ科に分類されていたものが、DNA解析の結果、現在はアオイ科に分類されています。また、アオギリは立秋の日に、たの樹木に先んじて葉を一枚落とすと言われ、「梧桐一葉落、天下尽知秋=梧桐一葉落チテ、天下尽ク秋ヲ知ル」(王象晋『群芳譜』)と詠われています。

この木はなんと言っても実の形が面白いのですが、それについてはまた後日。

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閑院宮邸跡に見たアオギリの花序。果実が膨らみはじめている。

2020.07.19.撮影
2020.07.20.記述


2020年7月20日月曜日

御苑自然教室:モッコクについて

京都御苑にて、「自然教室」に参加してきました。京都御苑は国の管理になりますので、主催は環境省京都御苑管理事務所とちょっと物々しい。物々しいですが、例年は人気の教室で、昨年は多いときで150名を超える参加があったと記憶しています。今年はコロナウイルス感染対策で定員10名のコースを、植物とキノコで各1コースずつ。それぞれに講師の先生3~4名と係員2名が付く、大変贅沢な教室になりました。

参加したのは植物コース。植物コースと言っても、野鳥と昆虫を含む観察です。閑院宮邸跡を起点に、宗像神社までのごく短いコースでしたので、暑さを除いては、体力的には全くOKでした。以下、学んだ事、調べたことのうち、モッコクに関することをメモ書きしておきます。

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モッコクは日本、朝鮮半島、台湾、東南アジアからインドに至る海沿いの土地に分布している木。樹形が整い風格がある、ということで、庭木として人気があります。特に関東で好まれた木のようで、以前国分寺にある岩崎彦弥太別邸の庭、現在の殿ヶ谷戸庭園を訪れたときに,アプローチから整然と並ぶモッコクの木が美しく、印象的でした。渋い、通好みの樹木と言えます。

葉は厚いクチクラ層に覆われています。クチクラは英語ではcuticleであることを、今回の自然教室で初めて知りました。髪の毛の表面を覆うあの鱗状の物質です。平凡社世界大百科事典では「角皮,キューティクルともいう。生物体の体表(動物では上皮細胞,維管束植物では表皮細胞からなる組織)の外表面に分泌される角質の層の総称。」と定義されています。さらに調べてみると、cuticleはもともとラテン語のcuticlaに由来し、この語はさらにcutisから来ており、これは「皮」という意味になります。

モッコクは葉や花の形態学的特徴から、従来はツバキ科に分類されていましたが、近年の遺伝子解析により、現在APG分類では、モッコク科に分類されています。モッコク(木斛)の名前は、着生蘭の一種セッコク(石斛)の香りに似ていることから付けられたようです。雄木と雌木があり、雌木にも雄木の雄蕊の痕跡が見られることもあるとか。花が咲いた後はツバキに似た小さな実ができますが、この実が野鳥たちの大好物で、キビタキ、コサメビタキ、ルリビタキなどが日本を離れる前の体力を付けるためによく立ち寄るということです。昆虫など肉食専門と思われるコゲラもこの実を好んで食べに来るということでした。

この日のモッコクはすでに花期を過ぎていたので、下の写真は7月5日に撮影したものです。雄木の花だと思います。


2020.07.05.撮影
2020.07.19.記述


2020年7月7日火曜日

Nomenclature and Political Correctness (命名法と政治的公正性)

御苑のきのこ会に参加してきました。梅雨の長雨で成長したたくさんのキノコが見られました。一方で参加者が多く、ピーク時(出入りは自由ですので)には60名を優に超えていたと思います。キノコの観察はどうしてもお互いの距離を保ちにくく、また、スマホなどで近距離から写真を撮る方が多くて、観察者が密集しがちです。

マスク着用者がほとんどでしたが、途中から暑さのため外す方もあり。当方としては三密を避けるべく、できるだけ遠くからの参加を心がけ、メモをしっかり取って、写真を撮る際には証拠写真に徹し、後日の再訪に備えてスマホにトラッキングソフトウェアを起動しておきました。近日中に再度じっくりと確認したいと思います。

解説のお話の中に、近年のDNA解析により、キノコの分類や学名がかなり変わってきていることがありました。また、和名に時に差別的な名前などが残っている場合があり、それも合わせて改訂しているということでした。調べてみると日本菌学会では、すでに2008年に「日本菌学会推奨和名の決定についての手順」というガイドラインを出しており、その中に、

7 .和名をつけるにあたっては,故意に差別用語や不快な印象を与えるような単語を使うべきではない.

という一節がありました。日本でもようやく浸透してきたPC Movement(PC=Political Correctness(政治的公正性:何か馴染めない訳語ですね))は、菌類学会では比較的早く、少なくとも規定はできていたようです。

キノコの場合、何がそのような名前に当たるのかよくわかりませんが、「ニセ...」や「...モドキ」の名前を結構目にします。類似したキノコとの重複を避ける意味で付けられたのでしょうが、いささか罪な名前です。

草本でも、昨日書きました「ママコノシリヌグイ」など、植物での差別的な名前としてやり玉に挙げられそうな気がします。牧野富太郎氏が命名した「ハキダメギク」や「ヘクソカズラ」もそのうち改名される日が来るのでしょうか...あるいは歴史的な価値があるということで、殿堂入りを果たすのでしょうか。

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今日一番のお気に入り、マツカサタケです。DNA分析の結果、このキノコはベニタケ目に分類されることになったそうです。外見はどちらかというとマンネンタケに似ているようですが。傘の形もハート型。

このキノコの特徴として過年の柄から当年の子実体が生えてくることがあるそうです。今日観察したものも、帰宅してじっくりと写真を見ると、側面の写真から判断して、どうも下半分の黒い部分が古い子実体に見えます。3年連続して生えてくることもあるとか。

傘の裏はハリタケのように針状になっています。これも特徴です。

拡大します。

キノコも底なしのディープな世界ですので、関心はホドホドにしておきたいと思います。

2020.07.05.撮影
2020.07.06.記述


2019年11月12日火曜日

観察記:DNA分析に思う:サルノコシカケの仲間

近年の植物分類学は、従来の形態的な特徴に基づく分類から、DNAの解析に基づく分類「分子系統学」に移ってきています。そのため、形態的に似ていても、分類学的には異なるということで、新分類体系が生まれています。これが、APG分類と言われるもので、APGとは、Angiosperm Phylogeny Group(被子植物系統グループ)という、この方法をとる植物学者の団体名から来ています。

APG分類は1998年に発表されました。また、それ以前のクロンキスト体系は1980年代に提唱され、さらにそれ以前の分類は形態的な特徴を重んじた新エングラー体系、さらにさかのぼるとエングラー体系、と呼ばる分類体系がありました。

図鑑で調べる場合には、1998年以前に出版されている植物図鑑などはAPG分類に基づいていないので、それを知った上で分類名を読まねばなりません。このブログで何度か言及したガガイモは、クロンキスト体系では、ガガイモ科に属していましたが、APG体系ではキョウチクトウ科に移されました。もっとも図鑑によっては、1998年以降の出版でも、編集作業の都合で、APG体系に基づいていない場合もありますので、古書で図鑑を購入する際には、その図鑑がどの体系に基づいているのか確認する必要があります。

それにしても、人間の知識と直感に基づいて、これは〇〇である、と言えないのはさみしい気がします。また、植物を分類するのに、植物の姿形や生育環境も調べることなく、植物体から採取した一片のDNAを分析して、その植物を知ったつもりになることの危険も感じざるを得ません。

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さて、昨日書いた御苑のきのこですが、帰り際にサルノコシカケの仲間を見つけました。これは従来ならば、コフキサルノコシカケと呼ばれていたものですが、上記のAPG分類と顕微鏡による胞子の大きさの研究で、現在では北方系のコフキサルノコシカケに対して、オオミノコフキタケと呼ぶのが正しいようです。

底は管孔という微細な孔が空いていて、そこから季節になると胞子を放出します。

一年に一襞成長するらしいので、このきのこは、数えると約30年以上ここで成長しているようです。

拡大すると、無骨ながらも、どっしりと生きてきた年輪が刻まれているのが分かります。
2019.11.10.撮影
2019.11.11.記述



京北の林内探索

京北の樹木植物に詳しい方に案内していただいて、ホンゴウソウを探しに行きました。昨年枯れたものを見つけられたとか。目的の場所に行くと、Bingo!約20株ほどが集まって、周囲にもまばらに生えていました。ヒノキ林の林床です。そこから冬虫夏草探索に切り替え、ムシヒキアブのアナモルフ、ガ...