2020年1月31日金曜日

『花洛-京都追憶-』つれづれ

本棚に目をやっていると懐かしい新書が目に入りました。松田道雄の『花洛-京都追憶-』(岩波新書)です。パラパラとページをめくっているうちに読み覚えのあるページにいくつも行き当たり、時の経つのを忘れて読みふけってしまいました。明治から大正時代の京都の市井に生きる人々の姿を活写して、今に蘇らせてくれます。


奥付を見ると初版1975年、これは5刷で1982年の出版。今から38年前です。松田を知ったのは、長女が生まれて夫婦二人で育児の方向性に迷っていた頃。愛おしくも見知らぬ新しい命にどのように接してよいか途方にくれていた頃です。当時は育児書ブームで、『スポック博士の育児書』の、日本の育児の常識を根底から覆すような育児法も注目を集めていました。その中で、松田の『育児の百科』に出会いました。巨視的な視点をもって子供の成長を見つめながら、おおらかに子供と接することの大切さを教えてくれたのが松田の育児書でした。京都在住の小児科医ということもあり、一気にファンになりました。

その後何冊か読んだ松田の書籍の一つがこの『花洛』でした。松田の著作に通底するのは、人間への確かな信頼と暖かな思いやりです。その松田の著作の中でもこの書物は私にとって特に印象深いものでした。それは大都会となってしまった今の京都の背後にかいま見える在りし日の京都の姿を鮮やかに見せてくれるからでしょう。また、自分の記憶にある子供の頃の情景と重なる部分もあります。しかし、私がこの書に惹かれる本当の理由は、京都の今昔の対比が面白いばかりではないようです。

松田道雄は茨城の出身です。父に連れられて幼い頃に京都に出てきた松田は、茨城と京都という、文化が均質化してしまった現代からすれば、遠い外国と日本とも言えるような2つの全く異なった文化を経験し、受容しながら記録にとどめています。この書の本当の魅力は、松田と同様に地方から京都に出てきて、この地を仮住まいと未だにうっすら感じている私にとって、京都を「異邦の地」として際立たせてくれることにあるのかもしれません。

2020.01.30.記述


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