2020年2月2日日曜日

『中谷宇吉郎随筆集』思い出すこと(続き)

中谷宇吉郎については、いくつか著作を読みはしましたが、その後に私自身の学業や留学、結婚、就職などが続き、すっかり忘却の彼方になりました。再発見がいつ頃だったか、はっきり覚えていませんが、職を得て随分立ってからのことだと思います。札幌で学会があり、発表を終えて、札幌大学の構内を歩いていた時、ふと六角形の記念碑が目に入りました。木立の奥に、半ばひっそりと「人工雪誕生の地」と刻まれています。「ああ、そういえばここはあの中谷宇吉郎の...」と碑にちかづくと、その脇に碑の由来を書いたパネルの掲示がありました。その写真が驚きだったのです。下の写真がそれです。

北海道大学理学部「理学部ゆかりの研究者」より

そこには、極低温の実験室の中で防寒服に身を固めた若者が、眼をカッと見開いて研究装置を覗き込んでいる姿がありました。対象に食らいつく眼光は鋭く、はつらつとした表情は、それまでのうすらぼんやりしたおじいさんのイメージを吹き飛ばすものでした。血気盛んな新進気鋭の研究者としての姿が、そこにはありました。この時はじめて中谷宇吉郎を研究者として、同世代の若者として、血肉を持った人間として実感できました。

その後あらためて随筆集を読み直してみると、一つひとつの随筆の中に宇吉郎の姿が生き生きと立ち上がってきました。それ以来中谷宇吉郎の随筆は私のお気に入りの書の一つです。もしも小学校の教師の一人でも、このような、気迫と魅力に富んだ宇吉郎の姿をしっかりと伝えてくれたならば、私の人生ももっと違ったものになっていただろう、と考えるのは、身勝手な想像でしょうか。

2020.01.30.記述




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