マコモの花が咲く季節になりました。花期はごく短く、1週間程度。初秋限定の花です。
しかし、花といっても派手さは全くありません。それもそのはず、マコモはイネ科の植物で、単子葉植物にありがちなジミ~な花がチラリと咲くだけです。しかし、なかなか捨てがたい美しさがあるのは事実。実際に、派手な花よりも小さくて地味な花を愛でるのは、控えめと洗練を好む日本人の感性ではないでしょうか。マグノリアよりも侘助、の世界です。
さて、このマコモ、漢字では「真菰」と書きます。古くは「菰」だけでもマコモの意味だったようです。マコモはその葉を採取して編み、筵(むしろ)を作りました。それもまた「菰」と呼ばれました。私の子供の頃、郷里では稲わらで編んだ筵を「こも」と呼んでいました。古の言葉が残っていたのでしょうね。
「菰(こも)」は「お菰(こも)さん」また「虚無」ともあてて、「菰」でできた編み笠をかぶった「虚無僧(こむそう)」などの言葉として、つい最近まで人々は理解できたでしょう。今の若い方がどうかは知りませんが。
マコモの芽に、黒穂菌((くろぼきん))がつくと茎が竹の子状に肥大化し軟化して、これを菰角((こもづの))や「マコモ筍(まこもだけ)」などといい、日本や中国をはじめ東アジアの国々で食用にされます。日本では菰角が熟して黒くなったもの(胞子)を採取して、これを「まこも墨」といって眉墨やお歯黒などに用いたということです。
初秋に花が咲き、実は食用となり、昔は六穀の一つ「菰米(こもべい)」として数えられました。マコモはそれほど古人の日常に関わっていた植物であり、万葉集、古今和歌集などでは「真菰刈る」という言葉は、マコモの多く生えていた地域である「大野川原(おほのかはら)」「淀(よど)」などにかかる枕詞でした。
万葉集には、かなりきわどい内容かと思いますが「真薦刈る(まこもかる) 大野川原の 水隠もりに(みごもりに) 恋ひ来し妹(いも)が 紐解くわれは (巻11-2703)」の歌をはじめとして、「菰」に言及した歌が数多く存します。
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