2020年3月11日水曜日

フラサバソウ

京都地方で見ることのできるイヌノフグリの仲間(オオバコ科クワガタソウ属)には、イヌノフグリ、オオイヌノフグリ、タチイヌノフグリ、フラサバソウ、コゴメイヌノフグリ、そしてムシクサがあります。先日の例会ではそこここに咲くオオイヌノフグリの鮮やかな紫色が、日の光に映えてきれいでした。その合間にフラサバソウの姿が見えましたので、記録しておきます。ちなみに、オオイヌノフグリ、タチイヌノフグリ、フラサバソウ、コゴメイヌノフグリは外来種です。

共通した科名のVeronicaは、聖ヴェロニカのことで、ゴルゴタの丘に十字架を背負って歩かされるイエス・キリストを哀れんだ、敬虔な信者ヴェロニカが彼女のヴェールを差し出し、イエスが顔をぬぐったその布にイエスの顔が浮かび上がったという聖顔布の逸話を持つ聖人の名に由来します。確かにオオイヌノフグリの花を正面から見ると、あごひげを生やした人の顔に見えないこともないようです。

フラサバソウの名前の由来は、明治時代に日本の横須賀に在住(1868年~1871年、1873年~1876年)した、医師で植物学者でもあったサバティエ(ポール・アメデ・リュドヴィク・サヴァティエ)と、彼の友人でパリのフランス国立自然史博物館で働いていた植物学者フランシェ(アドリアン・ルネ・フランシェ)との名前を折衷して付けられたものです。サバティエは医師として横須賀造船所で働きながら、当時の日本の植物学者と交流しつつ、日本の植物を広く収集し、フランスに送りました。それを受けたフランシェがこれを研究し、後にサヴァティエと共著で『日本植物目録』(Enumeratio Plantarum in Japonia Sponte Crescentium)を出版しました。これはラテン語による日本の植物目録で、類書としては初めてのものです。フラサバの名前は日本の近代植物学への貢献者として、これを記念すべく付けられたもののようですが、かなり地味な植物が選ばれたプロセスには何があったのでしょうか。ラテン語名はVeronica hederifoliaで、「聖者名+キヅタ属 Hedera に似た葉の」を意味します。

なお、フランシェは勤務先の横須賀造船所で発見された動物の骨の鑑定を、当時の東京帝国大学地質学教室の初代教授だったハインリッヒ・エドムント・ナウマンに鑑定依頼し、それが後にゾウの化石であることがわかり、1924年に Elephas namadicus naumannni (和名:ナウマン象)と命名されました。

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フラサバソウの特徴はとにかく毛深いこと。匍匐性で立ち上がりません。花の大きさはイヌノフグリよりも一回り大きく、オオイヌノフグリよりも二回りほど小さい。色は淡青紫色がかっていて、オオイヌノフグリの横に置くと白っぽく見えます。

これは桂川河川敷に生えていたもの。


  これは有栖川沿いに生えていたもの。花の色がかなり白い種類です。

しかも毛深い!

2本のおしべでめしべを囲む姿はこの科に共通しています。



2020.03.07.および2020.03.03.撮影
2020.03.10.記述


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