2019年7月30日火曜日

セミ捕りの思い出

子供の頃の夏の楽しみは、虫捕りでした。まれにしか捕れないカブトムシやクワガタを探すのも楽しかったですが、もっとも身近にいて一番の遊び相手はセミでした。自宅裏手には背戸と呼ばれる雑木林があり、自転車で5分とかからないところには境内にケヤキやモチノキなどがうっそうと茂る神社があったので、セミ捕り場所には事欠きませんでした。

セミはまず、7月半ばからのニイニイゼミ、そして8月のアブラゼミ、お盆が過ぎる頃にはツクツクボウシがよく鳴きました。この頃になると、夏休みの宿題が気になってきます。8月末になるとニイニイゼミの姿はまばらになり、アブラゼミは捕まえても元気がなく、足を丸めて「ジジ、ジジ」としか鳴かない「ジジゼミ」が多くなりました。夏の季節の変化はセミで確認していました。

祖父母の田舎に行くと、まれにミンミンゼミやヒグラシが捕れることがあり、これは特に嬉しかったです。祖父母の家には虫かごなどないので、取れた蝉は、マメをふるう木製の大きなふるいを逆さに伏せてその中に入れておきました。また、家の周囲には広い畑があり、夏には実を収穫したトウモロコシがたくさんあったので、この茎を適当な大きさに切って入れておくと、のど(?)が渇くのでしょう、蝉たちはすぐにトウモロコシに移り、口吻を立てて液を吸い始めます。機嫌が良くなると、オスたちは大きな声で鳴き始めます。戸外でもかなり大きな声ですが、室内で鳴く蝉の声の大きさは、築100年の古屋を振るわせるほどでした。

当時は今のように気の利いた虫捕り網など簡単には手に入らず、ましてや田舎の家にそのようなものがあるはずもなく、虫捕り網は蜘蛛の巣で手作りしました。太い針金を丸く曲げて、それを竹棒の先に細い針金で固定し、丸い輪のついた竹の棒を作ります。次に大きく張ったオニグモの巣を探して、丸い輪で蜘蛛の巣を絡め捕ります。これを何度か繰り返すと、丸い輪の中に粘つく蜘蛛の巣が張られた状態になります。これでセミを捕まえるわけです。クモはオニグモでなければなりません。他のクモでは巣の強度が足りません。

クモは夕方に巣をかけ直しますので、そうやって作ったセミ捕り網は、前の晩に作られた蜘蛛の巣のリユースです。また、捕らえたセミを網の中に入れ込むこともできませんので、捕獲の成功率は低いです。また、力の強いセミは蜘蛛の巣の粘着力では捕らえきれず、また巣を破って逃げることもありますので、5回トライして1回成功すればラッキーというような蝉捕りでした。一、二度トライすると粘着力が弱まったり、網を壊されたりしますので、網の補強にまた蜘蛛の巣を探す必要がありました。なんとも原始的な方法ではありますが、今風に言えば、持続可能な民族捕鯨ならぬ、持続可能なセミ捕りとでも言いましょうか。

捕らえた蝉はその日のうちに逃がすのが恒例で、少々羽の痛んだ蝉たちを放り上げると、ぱっと羽を広げて、一目散に飛んで逃げる姿が、懐かしく思い出されます。お盆前には逃がすときに「ぼ~ん(盆)に金(かね)持ってこ~い、こい(来い)」と唱えながら逃がすものだ、と教えられその通りにしていましたが、未だにお盆に蝉からお小遣いをいただいたことはありません。しかしながら、蝉からは、お金に換えられない貴重な体験をたくさんもらったことは、間違いありません。



2019.07.27.記述




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