2019年8月31日土曜日

飼育記録:オオスカシバ:繭(まゆ)の不思議

日頃は何気なく見過ごしている事物でも、極端に拡大してミクロの視点を持ったり、逆に縮小してマクロ的に見ると、それまで見えなかったものが見えることがあります。

4月以降比較的時間が取れるため、植物や昆虫をミクロ的に観察することが多くなり、身近な生物に潜む新たな発見に驚いています。その一方で、京都周辺の河川や森林に観察に出かける機会も多くなり、都市化による自然環境の喪失、温暖化による生態系の変化、再生可能エネルギー開発の名の下に行われる大規模開発、豪雨対策として取られる河川改修などのマクロ的な視点も実感できるようになっています。

特にマクロ的・巨視的な視点からの観察は、長期的・継続的な記録の蓄積が大切ですので、有志の方々と連携して取り組んでいきたい課題です。

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さて、本日もミクロ的な観察の結果を。

オオスカシバが羽化した後、残された繭と抜け殻を観察していて気づいたことがあります。

これは繭の内側。余りにも薄いので向こう側のキッチンペーパーが透けて見えます。

繭の中身の1つ。終齢幼虫の抜け殻です。

繭の中身のもう一つ。蛹の抜け殻です。
さて、繭の内側なのですが、蚕やウスタビガなどと異なり、ごく薄い繭を作っています。簡易繭と言っても良いかもしれません。アケビコノハなどと共通しています。

拡大するとその目の粗さがよく分かります。糸をよく見るとツヤツヤ光っている部分があるのに気づきます。

その部分が分かりやすいように、飼育容器に糸を吐いた部分を見ると、糸に薄い膜がかかったようになっています。

拡大します。糸の周辺に薄膜状の透明な部分があることが分かります。正体はよく分かりませんが、どうも糸を土台に貼り付けるための接着剤のようです。

つまり、幼虫は繭を作る際に糸だけでなく、糸を固定するための粘液のようなものを吐き出しているのではないでしょうか。通常そうなのか、それとも、繭を作るときだけなのか、今後観察のポイントが増えました。

ツヤツヤ光って平面に見える蛹の側面は、コクワガタのようにディンプルで覆われています。

さらに拡大すると、つなぎ目もさらに細かいディンプルに覆われていることが分かります。

バイオミメティクスの研究によって、植物のマイクロディンプルは撥水性や自己洗浄作用を持つことが証明されています。コクワガタや蛾の蛹の表面構造は、キチン質の素材と相まって、泥やチリを寄せ付けないのかもしれません。あるいは表面にはさらに微細なナノレベルのディンプル構造があり、それを可能にしているのかもしれません。残念ながら、素人にできることは、上記の観察レベルで、あとは推測して楽しみましょう。

2019.08.28.撮影
2019.08.28.記述




2019年8月30日金曜日

貴船を歩く:植物を見ながら

貴船の散策で出会った植物を紹介します。酷暑の日々が続いても、植物たちは季節に沿って着実に芽生え、成長し、花を咲かせ、実を結び、枯れていきます。人は新緑や紅葉、花を愛でますが、成長のどの段階もその植物にとってはなくてはならない生きる過程を表しています。私たちの日々の暮らしの一つ一つの出来事も、私たちを私たちたらしめる、一つ一つの出来事であると思います。

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センニンソウです。貴船川を見下ろす車道脇に数カ所咲いていました。まだ咲き始めで、花とつぼみがほどよく交わり、清流を見下ろしてとても美しいです。

シャガの葉の間からヌスビトハギが顔を出していました。平地では外来種の荒れ地ヌスビトハギばかりになってしまいましたが、ここ貴船では在来種が健在です。

拡大します。ヌスビトハギの実です。きれいな半月型が2つつながる形(節果)で実をつけます。マメ科です。サヤマメに似ていますが、食べた人の記録は読んだことがありません。

イノコヅチはヒカゲイノコヅチのようです。市街地ではヒナタイノコヅチが主流です。

これも市街地ではほとんど姿を消してしまったゲンノショウコです。赤花です。

鮮やかな五弁の花が咲いています。

キダチコマツナギです。コマは「駒」のこと。コマツナギは匍匐性。キダチコマツナギは灌木になります。茎が丈夫で、馬をつないでおけるような強さをもっているということで、「コマツナギ」名前があるそうです。花はルピナスなどに似ていますね。マメ科です。

アキカラマツが咲き始めていました。漢方薬として健胃剤として使われます。キンポウゲ科の植物です。別名タカトウグサ。

アカソの花も咲き始めていました。葉と花を見れば分かりますが、イラクサ科で、ヤブマオなどと同じ仲間です。ただし、ヤブマオとは異なり低木になります。


ヨツバムグラのようです。

キツネノマゴが花をつけ始めていました。

貴船の料亭街では、シュウカイドウがほの暗い流れに映えています。

帰路に気づいたのですが、砂防ダムのそばの草地にアカネのつぼみがありました。こちらでも開花はまだのようです。
2019.08.26.撮影
2019.08.27.記述





2019年8月29日木曜日

貴船を歩く:昆虫と野鳥を見ながら

週半ばから天気が崩れるとの予報なので、スミナガシとスケバハゴロモを求めて貴船口から貴船神社まで歩きました。出発が遅くなり、貴船口に到着したのは午後2時半頃。谷間のこととて、すでに薄暗く、虫たちの姿を探すのは難しかったです。

求める虫たちのうち、スミナガシはタテハチョウ科に属し、幼虫はアワブキの葉などを食樹とする森林性の蝶です。花蜜や樹液などを吸うほかに、名前の優雅さとは裏腹に、動物の糞などに、おそらくミネラル類を求めて吸水(吸糞?)こともあります。

スケバハゴロモはカメムシ目に属し、焦げ茶色の縁取りのある羽が透明な虫です。カメムシの仲間なので、セミ、ヨコバイ、アワフキムシなどとよく似た顔をしています。不完全変態で、幼虫も成虫もクワなどの樹液を吸います。

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今回は残念ながらスミナガシは見当たりませんでしたが、スケバハゴロモは約20匹が群れるる場所を見つけて、ラッキーでした。

スケバハゴロモです。下を向くと縁取られた羽がハート型をしており、プロモートすると、爆発的な人気になるかもしれません。羽の開き方によりますが、後翅が人の顔(眉と眼)に見えます。恋人二人が顔を寄せているようにも見えます。

カラムシの葉柄に二匹が止まっています。

正面顔の拡大。セミとそっくりです。

 夕方の光を浴びて羽が虹色に輝いていたのですが、コントラストが低くて、うまく色に出ませんね。

アキアカネです。だいぶ色づいてきました。

キンモンガです。鮮やかな黄色と黒との虎柄が目立ちます。

河原にはカワガラスの姿が。

コアカソの茂みにはフクラスズメの幼虫が見えます。危険を感じると上半身をブンブンと左右に振って威嚇します。結構な迫力です。
2019.08.26.撮影
2019.08.26.記述





2019年8月28日水曜日

飼育記録:オオスカシバ:体色の変化

オオスカシバの4匹目が前蛹になりつつあります。今日午前中に摂食を止めて、場所を探してうろつき、飼育器のコーナーに場所を定めました。

アゲハの場合、徘徊する直前の終齢幼虫は、下痢便をして一気に体内の残留物を排出しますが、オオスカシバはそのようなことはせず、通常に糞をしながらうろつきます。先に蛹化したもの(1号~3号)は、繭の中にさえ数粒の糞をしていました。

不思議なのは体色の変化です。食餌を止めた段階で体色が土色に変化し始めます。その後徘徊しているときがもっとも土色が濃い時期です。その後繭を作る段階になると、体色は再び緑がかってきます。土の上を徘徊するときに少しでも見つからないようにとの擬態でしょうか。

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枝上ですでに体色の変化が見られます。これが午前8時頃。

徘徊中。これが午前11時頃。

繭を作り始める頃には体色が再び緑色っぽくなります。これが午後10時頃。

今年はオオスカシバが周囲で余り見られません。こうして保護してリリースすることで、少しでも個数の増加につながると良いのですが。

2019.08.24.撮影
2019.08.24.記述



2019年8月27日火曜日

小さな庭で:ジャコウアゲハの訪問

今日は少し気温が下がり、湿度もマシなので、小さな庭の手入れをしました。花壇の雑草を手で引いている間に、ヤマトシジミでしょうか、シジミチョウが10羽ほど回りを飛び交っています。やがてジャコウアゲハがやってきて、しきりに産卵場所を探していますが、ウマノスズクサは完全に食べ尽くされて、切り株状態です。何度も何度も巡回してきましたが、結局諦めて去ってしまいました。

こんな庭でも昆虫たちのオアシスになり得ますので、町中でも少しベランダや軒先で蝶の来る花や食草を育てる運動をすれば、これまでにない憩いの場所が生まれると思います。

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ピンぼけですが、ご容赦を。体に毒を蓄えているので、余り天敵がいないはずなのですが、やはり襲われるのでしょうか、左後翅は大きく損傷しています。この庭で生まれ育った個体かもしれません。

傷ついても後翅の長いジャコウアゲハは、飛翔する姿が優雅です。

花壇の後は、木々の剪定。その後芝生を、雑草を含めて刈り払い機でツルツルにしました。よく見ると刈り取った木や草にジャコウアゲハの蛹がついています...危ない危ない。保護しました。春から晩夏までに蛹化する蛹は、鮮やかな黄色い色をしています。場秋から晩秋に蛹化する蛹は、オレンジがかった色に赤い模様が鮮やかで、お洒落です。

レモンの木で蛹化したジャコウアゲハです。これは19号になります。蛹化の期日は不明。

これがレモンバームで蛹化したもの。これが20号。蛹化の期日はこれも不明。

自宅にはそのほかに、16号(22日蛹化)、17号(23日蛹化)、そしてこの18号がいて、これは昨夜自宅の飼育器内で前蛹化した個体です。今夜(24日)中に蛹化するでしょう。

コミカンソウの葉柄で交尾するヤマトシジミです。その後庭をきれいにしたので、一匹もいなくなりました。2週間ほどすれば食草のカタバミなどが新鮮な葉を伸ばすでしょうから、また戻ってくることを期待しましょう。
2019.08.24.撮影
2019.08.24.記述






2019年8月26日月曜日

ゴマダラチョウの不思議

これまでいろいろな昆虫をお世話してきましたが、今回初めて飼育したゴマダラチョウは、ちょっと不思議です。この個体に固有のものかもしれませんが。

この子を保護したのが、台風10号が西日本に上陸した8月15日。強風が吹く中、ピロティのそばのコンクリートの壁にしがみついていました。ゴマダラチョウだと判断してエノキを与えたのですが、全く食べず、ほぼ絶食状態で4日間が過ぎました。この間、ひょっとしてゴマダラチョウではないのでは、と思い、ユキヤナギやヤナギの葉などを与えましたが、まったく関心を示さず、飼育器の蓋に張り付いていました。

ところが、20日にようやくエノキの葉を食べ始めると、猛烈に食べる、次にう~んと休む、猛烈に食べる、う~んと休むを繰り返しています。休む期間は当初よりも短く1日程度ですが、その間はまったく動かずに「葉化け」しています。

通常幼虫は少し休みながらも、コンスタントに食べ続けるのが普通ですので、このインターバルのある食餌行動は不思議です。人に聞くと、ゴマダラチョウは、休みを取る葉が決まっていて、食餌の後はその葉に戻って休むそうです。人間ならば、ベッドでしっかり寝ると言うことでしょうか。

たらふく食べてお休み中のゴマダラチョウの幼虫です。皮膚のくすみ具合、肉角の角度、皮膚にある模様と枯れたエノキの鋸歯の色などが、ホントにそっくりです。毎朝姿を探し求めます。

食事中の様子の動画です。早回しではありません。ゆったりと休んでいた時には考えられないスピードで動きます。

もう一つ動画を。食べるスピードが半端ではありません。早食いするので、ゆっくり休む必要があるのでしょうか。さんざん食べた後に、ぴたりと動かなくなりました。
この種の特徴なのか、個体の個性なのか、不思議です。

2019.08.23.撮影
2019.08.23.記述



2019年8月25日日曜日

精霊トンボ、精霊バッタ

この季節になると精霊(しょうりょう)と名のつく昆虫が現れるようになります。ショウリョウトンボと、ショウリョウバッタです。精霊とは死者の霊のこと。それを送る頃、初秋に現れる虫たちです。

一般にショウリョウトンボはウスバキトンボのことを言うようですが、京都ではハグロトンボを「オショライトンボ」などと読んでショウリョウトンボとするようです。都市化した京都の町中の鴨川などにもよく見ます。

昔の京都では、親たちが子どもたちに、この季節のオショライトンボを捕らえたりすることを戒めたりしたそうですが、今ではどうなのでしょうか。

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これが一般的にショウリョウトンボと言われるウスバキトンボ。この季節にたくさん飛びます。アキアカネと取り違えられて、赤とんぼなどと呼ばれることもあります。薄黄色のトンボで、それこそ魂のように軽く、はかなさのあるトンボです。2019.08.22.撮影

 こちらはショウリョウバッタ。メスの方がオスの10倍ほどの重さです。メスは動きが鈍くて捕まりやすく、長い後ろ足を持つと、はねようとしてピクンピクンと体を揺らせるので、コメツキバッタとも呼ばれ、オスの方は飛ぶときにキチキチと音を立てるので、キチキチバッタとも呼ばれます。2019.08.21.撮影

これはメスの茶色型。数的には少ないですが、このような茶色型のオスメスもいます。2019.08.22.撮影
猛暑が和らいだと思ったら、秋雨前線の停滞で、にわか雨と高湿度の毎日です。

2019.08.22.記述





平均棍

カやハエなどの「双翅目(ハエ目)」の昆虫には、前翅の付け根に退化した後翅が見えます。多くは先の丸まった棍棒のような形をしており、「平均棍」と呼ばれます。わかりにくい日本語ですが、英語では balancer というので、こちらの方が機能的に理解しやすいです。飛翔時には、前翅の羽ばた...